「債券や社債ってそもそも何?株と何が違うの?」という人は下記のベーシックな解説記事をまずご覧ください。
[To be updated]
外貨建て債券(外債)とは?
外債とは読んで字のごとく「外国通貨建てによって発行された債券」という意味です。
つまり日本企業に当てはめて言えば、例えばユーロやドル等の海外の通貨で発行する債券のことを指します。
「ユーロ建て」と言えば通貨はユーロなので、日経新聞には「(株)●● ユーロ建て普通社債で500億ユーロを調達」というような見出しで書かれます。
近年では国内円建て普通社債に代わって外債で資金調達をする日系企業も増えてきており、例えば2019年では楽天、関西電力、パナソニック等の一流企業がこぞって新規の起債を実施しています。
外債を発行するメリット
ではなぜ日本企業がわざわざ外国通貨による債券を発行する必要があるのでしょうか?
勿論個社ごとに事情は異なり、一概にコレという理由はないのですが、一般的に外債を発行することによって下記のメリットは取れると考えられます。
筆者は元投資銀行バンカーということもあり、まず企業側の視点に立ってメリットを考えてみることにします。
一般的に外債発行の際は下記のうちどれかを取り上げてクレジット・ストーリーを作ることが多いです。
- 海外事業での取引における為替リスクや手間の軽減
- 調達ポートフォリオの多様化によるリスク分散
- 場合により外貨建て起債後に円転換し低コストで調達可
- 海外機関投資家への認知度拡大
①海外事業での取引における為替リスクや手間の軽減
国内企業はもはやグローバル化の波には逆らえず、海外で事業展開をしていない一流上場企業の方が希少だと言える昨今。
勿論海外で事業を展開するということは、その国の通貨によって取引先からモノを仕入れ、納入するという流れが発生することは容易に想像されます。
アメリカで事業展開するのに、円を用いて現地サプライヤーから納入を受けることはなさそうで、やはりドルを用いて取引をしていると考えるのが自然です。
一方海外事業に必要なそのドルベースでの手元キャッシュはどのように賄っているかと言えば、基本的には日本本社の円キャッシュをドルに転換することで調達をしているのが多くの日系企業の実情でした。
我々日本人がアメリカ旅行に行く際に羽田や成田で日本円をドルに換えるように、日本企業も為替を利用して日本円をドルに換えているというわけです。
しかしいちいち交換する調達方法にはどうしても為替変動リスク(円高の場合はより多くのドルに交換できる一方、円安の場合は対して多くのドルに交換できない等)をはらんでおり、自分たちでコントロールできないマクロ環境が変数に入ってきてしまいます。
また勿論交換手数料も都度発生することに加え、いちいち交換手続きをする必要が出てきてしまうことも問題点と言えるでしょう。
ただし外債により最初から現地通貨で調達をしてしまえば、上記のような為替にまつわるエトセトラはなくなるわけです。
海外での事業展開上必要になるキャッシュをドルやユーロ等の現地通貨で調達して為替リスクをなくすことは外債起債の理由の一つであるでしょう。
②調達ポートフォリオの多様化によるリスク分散
資金調達手段の持ち駒を増やしておくことは企業にとってリスク分散となります。
どんなリスク(不確実性)が分散されるかと言えば主には為替リスクやカントリーリスクです。
手元キャッシュを国内普通債による日本円での調達しかしていない場合は、仮に驚くくらいの円安・円高になったり、日本が国難に遭遇して国が崩壊しかけるようなことがあったりして円の価値が乱高下するようなことがあれば、事業活動を続けていくのは困難になるでしょう。
そういった為替変動リスクやカントリーリスクの軽減のため、ドルやユーロ等外国の通貨でも一定する保有しておくことは重要になってきます。
円の価値が上下するとドルやユーロは逆ぶれするパターンが多いので、為替ヘッジになるわけです。
あとこれは社債か銀行借入かという一般的な違いにもなりますが、銀行借入に比べて社債調達は大規模かつ多くの機関投資家から資金を引っ張ってこともメリットになります。
もし取引先の銀行が貸し渋りをするせいでこれ以上の借入が難しそうな場合でも、機関投資家A・B・C …からまとまった資金調達をすることが可能です。
調達ポートフォリオの分散と言っても、社債/借入の多様化、社債の中でも円債/外債の多様化、調達先の機関投資家/商業銀行の多様化をはじめ色々な文脈が含まれていることには留意しましょう。
③場合により外貨建て起債後に円転換し低コストで調達可
ここでいうコストとは負債調達コスト(Cost of Debt)のことで、一般的には金利のことを指します。
昨今日本経済は空前の低金利だったため基本的には日本円で社債調達したほうがコストが低い状況でしたので、傾向としてあまりこういった状況はなかったように思います(利率が低いので元本+αの利息が少なくて済んでお得)。
基本的に社債の利率はベース金利+スプレッドで決定されますが、日本の場合はベース金利が日本国債利回り、スプレッドが個社の財務リスクや現行の格付を踏まえて決定される上乗せ分であるのが通常なので、日本国債の金利がアメリカ国債より低い状況では、単純に言えば日本国債で調達した方がコストは少なく済むというわけです。
ただ足元はやや上昇傾向で日本国債10年債利回りは2020年6月時点で0.01%前後で推移しているので、もし仮にアメリカ国債10年債利回りが日本国債の利回りを下回った場合、米ドル建てで調達したほうがむしろコストが低いということも起こりうるわけです(アメリカ国債は約0.6%で推移)。
そういった場合調達コストの低いドル建て債でキャッシュ(ドル)を調達し、それを為替レートですぐに円に換えてしまえば、結果として直接円建て債でキャッシュ(円)を調達するよりも多くキャッシュを得られる可能性があるということです。
ただし一般的に日本の金利が上がると円高ドル安になる傾向にあるので、お得にドル建て債でドルを調達できたとしても、ドルの価値が安い時に日本円に換えてしまうと結局相殺されてトントン、みたいな状況も考えられます。
ですから円倒しを前提にした外債だとしても、交換するタイミングは慎重に見計らった方が良いということになります。
「なぜ日本の金利が上がると円高ドル安になるの?」という人は、金利と為替の関係の記事をご覧ください。
[To be updated]
④海外機関投資家への認知度拡大
これはベーシックな理由となるので別に挙げるほどでもないですが、起債をするというのはアナウンスメント効果があります。
銀行借入の場合は銀行と企業との相対取引のため、よほど大規模なシンジケートローンでもない限り適時開示はされません。
(シンジケートローンについての詳細はこちら)
[To be updated]
一方社債は株式と同じ「有価証券」のため、投資家保護の観点で企業には適時開示をする義務が発生します。
なおかつ外貨建て社債を発行するともなれば、海外の機関投資家は「日本のナニガシという会社がドル建てで●●億ドルも記載するのか。どんな会社なんだろう?」ということで興味を持ってくれる可能性は高いでしょう。
また起債をアナウンスした後、発行する企業はお手伝いをしてくれた主幹事証券会社を通じて機関投資家にアポイントメントを取り、いわゆる「ロードショー」という売り込み説明会をすることになります。
(ロードショーについての詳細はこちら)
[To be updated]
ロードショーの場にその社債の購入を考えている機関投資家は参加してくれるので、そこでも改めて企業のことを説明し理解してもらえるチャンスがあるということです。
実際に社債を購入してもらえることになれば、次回起債時も継続購入してもらえる可能性があり、企業にとっては資金調達の円滑化に繋がります。
次回以降の資金調達の布石になるという面でも、ドルやユーロ建てでの起債実績の積み重ねは大事になるでしょう。
外債投資をするメリット
では対照的に投資家側の視点に立った時、現在外債を購入して運用するメリットはどこにあるのでしょうか?
実は個人投資家であっても債券投資による資産運用は可能ですので、外債の特性を理解したうえでご自身のポートフォリオに組み入れるべきか考えてみてください。
前提として、社債の利回りは以下の要領で決まることを念頭に読み進めていきましょう。
一般的に国家の発行する国債はこの世で一番信用力があるためリスクが低い一方、企業は常に倒産するリスクに晒されているので、社債よりも国債の方がリスクは高いと見られて利率は高くなる(ハイリスク・ハイリターンになる)ことを覚えておきましょう。
社債の利率=ベース金利(※1)+スプレッド(※2)
※1:その社債の通貨に対応する国家の国債利回り(例:ドル建て債なら米国債利回り)
※2:企業の財務リスクや返済能力に応じて加算するリスクプレミアム
①海外債券の方が国内債券より高利率である
先ほども書きましたが、昨今の日本は空前の低金利時代を迎えています。
日銀のマイナス金利政策等も一時期ニュースを賑わしていましたが、極度のデフレ脱却のために金利を引き下げて企業がおカネを借りやすくし、事業活動を活発化してもらうことを主な意図に金利を引き下げているわけですが、投資家側からしたらこの市況はかなり渋い状況です。
というのも例えば以前は金利が10.0%だった場合、100万円貸したら来年には110万円になっていたのに対し、金利が1.0%だとしたら100万円貸したら来年になっても101万円にしかなりません。
勿論金利が高すぎるのも考えもので、あまりに高すぎると企業が元本と利息を返済できなくなるリスクを考慮しなくてはいけませんが、現在の日本国債の利回りはほぼゼロに近い水準であるので、さすがに投資リスクに見合ったリターンが小さすぎると考えるのは自然だと思います。
一方、現在米国債やユーロ圏の国債は日本に比較して金利は高めな傾向にあり、ベース金利の面から見てハイリターンが見込めます。
リスクとリターンは表裏一体であるため、日本に比べて米国債やユーロ圏の国債はデフォルトリスクが高いということにはなりますが、基本的にこれら先進国の国債が潰れるようなことがあれば日本も何かしらの影響を受けることになるので、究極考えても仕方ありませんね。
また海外企業は概してアグレッシブな事業活動を展開しており、そのための資金調達として日本企業よりも高い割合で社債や借入を実施している企業が多いです。
これはコーポレートファイナンス上は正しい政策であり、株式に対して有利子負債の比率を高めてROEを挙げていこうという企業努力の意識が高いことの証左でもあります。
(ROEやROICについて詳しく知りたい人は下記へどうぞ)
[To be updated]
ただし債券投資家からするとこれは万が一事業環境が悪化した際に負債過多になって倒産するリスクが相対的に高いことを意味しており、その分求めるリターン(スプレッド)は高く設定されます。
ハイリスクな投資なのだから成功した暁にはハイリターンを約束してもらわないと割に合いませんよね。
というわけでベース金利もスプレッドも海外企業の社債の方が高く設定される傾向あるので、これがそのまま高利率の所以になるというわけです。
元本保証がされている債券という特性上株式と比較してリターンは小さくなりますが、その中でもリターンを取っていきたい人は外国債券投資は考えるべきだと思います。
②投資ポートフォリオの健全な分散
投資家の運用資産の大きさにもよりますが、元手が大きくなってきたりハイリスク投資は心理的に抵抗があったりする場合は守りの投資を検討する必要があります。
いわゆるインデックス投資に近い概念になりますが、インフレ率(ベース金利)+α程度の安全運用を考えるのであれば債券投資はマストになってくるでしょう。
また仮に株式投資が好きで割と多くの金額を張っている人であっても、もしその個別株が業績悪化等で株価が下落したり減配したりした際の損失を補填をするためにある程度ポートフォリオの分散を図っておく必要があります。
守りの運用の中でも多少のリターンは望みたいという人であれば、現在の状況ならば日本国債より外債に張った方が金利の関係でより多くのリターンを見込めるので、外債投資は一考の価値があると思います。
外債投資の方法とやり方
では実際に外債投資を考える場合、個人投資家としてはどのように投資すればよいのでしょうか?
方法としては以下のように大きく2つあります。
①証券会社で口座開設をして直接債券を購入
これは一番わかりやすい例ですが、証券会社経由で証券口座を開設しそこから直接債券を購入するパターンです。
債券は主に機関投資家向けに販売されることの多い有価証券ですが、一部の個人向け社債であれば基本的にどの証券会社でも取り扱いがあります。
より豊富なラインナップから選びたいという方は大手証券、取引のスピーディさや便利さを重視したいという方ならネット証券がうってつけでしょう。
多くの個人投資家が使っている有名な証券会社をいくつか挙げると以下の通りです。
対面型証券会社
色々な債券を見てみたい、対面で説明を受けてから購入するかを決めたいという人には直接営業マンから話を聞ける対面型証券会社がおすすめです。
日系証券会社No.1と言えば伝統のある野村證券ですし、すでによく使っている銀行があるのなら、みずほ証券・SMBC日興証券・三菱UFJモルガンスタンレー証券のような銀行系証券会社もおすすめです。
銀行系証券会社の場合は銀行口座から証券口座に送金する手間が簡便であったり、自分の資産状況に応じてトータルアドバイスをもらうことができるのでより幅広いアドバイスが欲しいという人にはうってつけでしょう。
インターネット証券
スマホやPC経由での取引を前提としており、現代を生きる忙しい方にとってはうってつけのネット証券も検討の価値ありです。
対面型証券会社に比べて人件費を削れるビジネスモデルのためその分取引手数料はかなり割安になっており、費用も抑えながら自分の目利きで投資をしたいをしたい人にとってはこちらの方が適していると言えるでしょう。
個人投資家からの人気がうなぎのぼりのSBI証券、ネット証券業界の老舗としての実績を持つ松井証券、AI搭載のロボアドバイザーによる運用支援など画期的な施策を得意とするマネックス証券、新興勢力として頭角を現しつつあるLINE証券などが代表格です。
証券会社ごとに手数料の計算方法やプランが異なっているので、まずはしっかり比較検討して自分の投資スタイルに合う証券会社を見つけましょう。
②債券運用を得意とする投資信託会社に運用を委託
とはいえ最初は株式よりもなじみの薄い債券投資を自分ひとりで決断するのも躊躇しがち。
そんな人におすすめなのは投資信託です。
金融のプロであるファンドマネジャーに運用を任せることで、より確実なリターンを期待することができます。
もちろん運用手数料はかかってきますが、自分でむやみに投資をして損失を被るよりはいいでしょう。
特に投資初心者は投資信託をはじめに検討するのも良いと思います。
何となくでも金融の感覚がつかめてきた後に自己投資に切り替える人も多く、金融に興味を持つ入り口としても投資信託はおすすめです。
ではどのように投資信託を購入すればいいのかと言えば、大きく2つの方法があります。
証券口座経由で投資信託を購入
実は先ほど紹介した各証券会社から証券口座を作ることで、投資信託も合わせて買うことが出来ます。
債券同様に豊富なラインナップをそろえていますが、証券会社ごとに取り扱いのある投資信託は異なりますのでまずは自分が興味のある投資信託の取り扱いがあるかをチェックするところから始めてください。
投資信託に直接申し込んで運用を委託
既に購入したい投資信託が決まっている場合は、その投資信託販売している資産運用会社に直接申し込んで購入するという手もあります。
証券会社経由で口座を作るとどうしても中抜きの手数料が発生する反面、直接申し込んで購入する形態をとれば手数料は抑えることができます。
国内のいわゆる大手信託会社は言うまでもないですが、例えば以下のような投資信託は最近個人投資家からの人気も上がってきているようです。
外債投資まとめ
以上ここまで外債とは何か?についてじっくり解説をしてきました。
債券市場は近年ハイブリッド債などの劣後債も盛んに起債が進んできており、企業の資金調達の多様化を後押しする注目市場になっています。
今後も債券に関する記事をどんどん書いていくので、ぜひお楽しみに!