NTT/ドコモのTOBと5,000億円調達報道に関する雑感

コーポレートファイナンス

2020/9/30:NTT/ドコモ案件公表

日本最大の通信会社であるNTTの上場子会社であるNTTドコモの完全子会社化が公表されました。

ドコモは元々NTT(旧電電公社)内に置かれた移動通信事業でしたが、1985年の民営化以後NTTの事業分離が進められ、1991年にドコモの前身であるNTT移動通信企画株式会社が設立され、1998年には東証一部に上場を果たしています。

民営かつ上場企業であるものの、NTTドコモの大株主は約64%を持つNTTであり、NTTグループの連結営業利益の約7割を稼ぎ出すキャッシュカウ事業でした。

親会社であるNTTは未だに「日本電信電話株式会社等に関する法律(NTT法)」により政府が33%以上の大株主でないといけない企業なので、民営化されたとはいえ国営色は色濃く残っているというのもまた面白いですね。

過去の国策によって事業分離されたドコモを再び資金拠出して買収するわけですから、歴史の流れとは分からないものです。

2020/11/16には無事TOBが成立し、臨時株主総会での特別決議を経てスクイーズアウトにより完全子会社化を成立させる手続きが残るのみとなりました。

2020/11/13:NTT5,000億円の起債のリーク報道

そしてTOB成立直前に約4兆円の買収資金の足しにと国内最大規模である5,000億円の調達をするというリーク報道がありました。

NTT起債準備、ドコモ買収で5000億円以上の調達目指す-関係者

(2020/11/13 ブルームバーグ)

NTTが社債発行を準備していることが13日、分かった。複数の関係者によると、総額5000億円以上を目指す。NTTは9月にNTTドコモの完全子会社化を決めており、買収資金に充てるため大型の資金調達に踏み切る。

関係者によると、年限は3、5、7、10年の4本立て。発行規模は市場状況によって変更するとしている。総額5000億円を超えた場合、国内での一度の起債額として最大となる見込みだ。NTTの起債については13日付日本経済新聞朝刊が報じていた。日経によると主幹事はSMBC日興証券と三菱UFJモルガン・スタンレー証券、みずほ証券、野村証券、大和証券が務める。

NTTの広報担当者は起債の計画は認めた上で、タイミングや規模についてはコメントを控えた。

国内の第5世代(5G)移動通信システム活用や次世代の通信技術開発競争が激化する中、NTTはドコモを完全子会社化して意思決定のスピードを速めたい考えで、ドコモに対し総額4兆2545億円で株式公開買い付け(TOB)を実施している。買い付け期間は16日までで、今期(2021年3月期)中に完全子会社化する予定。

NTTは発行済み株式総数の3分の1以上を政府が保有することが法律で定められており、新株発行による資金調達は難しい。このためNTTの澤田純社長は10月のインタビューで、まず銀行の協調融資を受け、借り換えのための社債発行を視野に入れているとの見方を示していた。円債だけでなくドル建て債の発行も検討しているとしている。

澤田社長は、通信領域での米中摩擦激化はNTTが世界展開を拡大するチャンスだとみる。NTTはあらゆる情報処理基盤に光技術を取り込み、高速かつ省エネの情報処理を実現する「IOWN(アイオン)」構想を19年に提唱。インテルとソニーを巻き込んでグローバルフォーラムを結成し、マイクロソフトや富士通、トヨタ自動車などが参加している。固定通信と無線通信の融合でサービスの幅を広げる考えだ。

国内社債市場ではセブン&アイ・ホールディングス(7&iHD)が3本立てで最大4000億円を今月下旬にも起債する見通し。日本企業による大型合併・買収(M&A)の増加とともに社債発行額も大型化する兆しがある。現時点で、ソフトバンクグループや武田薬品工業、パナソニックが発行した5000億円が最大となっている。

ブルームバーグ

4兆円も資金が必要なのでさすがに銀行から大規模ローン調達をやろうとしても賄いきれなかった構図しょうか。

一般的には銀行との取引は相対のため、交渉によっては多少ディスカウントされたスプレッド(市中金利からの上乗せ分)が適用されます。

現に2018年にはNTTグループが起債から遠ざかって銀行借入を優先している旨を指摘する記事も出ていました。

NTTグループ 円建て社債、5年で半減 銀行借り入れ優先
(2018/10/5 日本経済新聞)

NTTグループの社債離れが進んでいる。QUICKによると、9月末時点の円建て社債の発行残高は8700億円で、5年前から53%減った。金融会社のNTTファイナンスを軸に資金調達を進める中で、調達コストを見ながら金融機関からの借り入れを優先していることが大きいようだ。

昨年10月にNTTファイナンスが期間5年と15年で計200億円調達したのを最後にNTTグループは約1年、社債を発行していない。今年9月にNTTドコモの10年債(300億円)が償還し、グループの円建て債の発行残高は9000億円を割った。外貨建ては約2000億円にとどまる。

一方、グループの銀行借り入れは3月末時点で2兆3384億円と、5年で24%増えた。NTTは「グループ各社の判断で複数の調達手段を比較し、最も有利なものを選んだ結果」(広報室)としている。

今後の資金調達について、NTTドコモは「低利かつ安定的な手段を状況に応じて判断する」と説明。NTTデータも「最も有利な手段を選ぶ」と社債発行を否定はしていない。ただ、市場関係者からは「社債発行は年度に1回程度にとどまるのではないか」(国内証券)との声も出ている。

日本経済新聞

社債は複数の債券機関投資家に売り出すため、プロの投資家によるコーポレートファイナンス及び市況に基づいたスプレッド算定がされることとなり、比較的スプレッドが高めになります。

ですので基本的には銀行ローンが企業的には利率が低くて一番良いのですが、金額も金額なので起債に踏み切ったということでしょう。

足許の国内10年債の利回りは0.02%前後と一時期に比べるとやや復調気味ですが、引き続き低金利は続いているのでそこにスプレッドが上乗せされてもそこまで痛手でないという判断もあったと思います。

NTT自体は格付も良いですし、何よりパブリックセクターなのでスプレッドが普通の企業よりも広がらずに済みやすいという特性もあるでしょう。

記事の中には「円債のほかにドル建て債の発行も検討している」と書かれていますが、足許米国10年債はかなり金利が下がっており、発行体としてはまたとないチャンスと言えます。

2019年頃から続く米中貿易摩擦による景気後退懸念やFRBの金利引き下げ発表もあり、米国のリスクフリーレートは足許0.9%前後まで下がってきています。

発行体としては以前よりも低い利率で起債ができる状況のため、NTT初の外債の可能性は高いと思います。

FAと主幹事を見た際の違和感

ところでNTT/ドコモのFAはそれぞれ三菱モルガン/野村ですが、起債の主幹事は記事曰く三菱モルガン/野村/日興/みずほ/大和と主要証券会社が軒並み名を連ねています。

5,000億円を売りさばく必要があるので必然的に証券会社を多く起用して売り残しのないようにするのが普通ですからここについては違和感はありません。

問題は「NTT/ドコモ案件の公表前から主幹事選定はなされていたのか?」という点です。

というのもバイサイドFAかつ主幹事である三菱モルガンにとって、もし上記が正だとした利益相反が誘発された恐れがあるためです。

本来バイサイドFAには「いかに安く買い叩くか」というインセンティブが働くべきですが、逆に起債の主幹事の場合は「いかに起債額を大きくしてフィー総額を上げるか」というインセンティブが働きます。

すなわち買収価額が大きくなって調達しなくてはいけない金額が大きくなった方が三菱モルガン的には儲かるのです。

買収交渉の際もわざとNNTにドコモを高値掴みさせて買収価額を大きくさせ、それを賄うための調達金額も大きくさせることでより大きなファイナンシング・フィーを稼ごうとしようと思えばできるわけですね。

この点で三菱モルガンには利益相反が誘発されやすくなる構造に見えます。

案件が公表された後にベイクオフ(ビューコン)によって正式に主幹事選定がなされたならば問題はないですが、例え形式上そうであったとしてもNTT上層部と三菱モルガン側のディールキャプテンとの間では何かしらの口約束はあった可能性は高いと思います。

私がまがいなりにも投資銀行に在籍したことがあるからこそ見えるトリビアかもしれません。

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